日本刀は古くからわが国が誇る鉄の文化財です。
四方山話30
剣友K氏から、小振な短刀を鑑せられた。
当ててみろとのことである。
=来国光=ですね。=否です=
いつもの事だが、素養の無さを痛感する。
=濃州関住兼常=来写しの素晴しい品だった。
=来=と鑑て全てはずれではないと言える。
入手できる状況だったので、すぐに申し入れ翌日代金を振り込むことにして持ち帰った。
来物だとしたら、とても手のだせる金額ではないだろうし、翌日に振り込むことなど不可能だから、我身にあった品だと満足した。
するとこの兼常が鑑る度に手と眼になじみ、うれしくなっていった。
袋を作り直したりしているうちに、我孫娘のお守り刀にしようと思いだした。
ならば拵をと捜しだした。
来に鑑える兼常であり、それ相当の物でなければならない。
本身にも拵にも、手を入れることなく、収まる物をと捜していた。
これが素養の無さである。
=百本捜して、一本と無いのが貴方の捜している物です=
と素養たっぷりの方に注意され、別々に創られた物が、目釘穴までぴったり一致することなど、望む方がおかしいことに気がついた。
=新調するしかない=と時代物の拵をあきらめた。
数ヶ月後、漆黒の見事な合口拵に出合った。
一瞬、兼常を思い浮かべたが、=百本捜して一本無い=のだから、うかつな事は言えない。
ところが、小柄、笄は後藤の二所物、頭(カシラ)、鵐目(ウノメ)、鐺(コジリ)は唐草模様に縁どられた菊紋が金象嵌してある。
全身に九羽の鳳凰が彫り込まれ、格調の高さに圧倒され、兼常のことは別にして購入した。
しかし、帰宅途中から胸騒ぎがしていた。
勝手に兼常が入ると思い込んでいる私が居て、胸が高ぶっているのであった。
家人は留守であった。
兼常の柄を抜き、拵の継木をはづしてそっと入れてみた。
手前の目釘穴から覗いてみると、短刀の穴、向側の穴とぴったり重なっている。胸騒ぎが騒ぎでなくなった。
しばらくは昂奮が静まらなかった。百本千本の一本が手中に有る。
自慢したくて、剣友K氏とI氏に写真を送った。
両氏とも過ぎる程、賞讃してくれた。
後日I氏に見せに行くと、腰にあてがい我事のようにうれしそうな顔をしてくれた。
程なく、I氏所蔵の二十年掛けて磨きあげたと云うシンプルでシックな短刀掛が
=兼常と拵に敬意を表して= と贈られてきた。
今月はI氏の一周忌。
=あれこれと想いだす間の一周忌=