日本刀は古くからわが国が誇る鉄の文化財です。
四方山話27 「富士見鉄拐」
「富士見鉄拐」
船田一琴の縁頭を眺めつづけた。
後藤一乗の高弟なのに、一乗風の作域とは思えず困ってしまい、なんでだろうと眺め続けることになってしまったのです。
「鉄拐仙人図」縁頭と特保に書いて有り、「船田一琴」花押のりっぱな銘が該されている。私ごときが疑う余地は無いのに、何が何やら解らず、ぼんやり手の中でころがし続けた。
「石の上にも三年、辛抱の上に福やどる」
鉄拐仙人と、縁の何だか解らない図の関係がとつぜんひらめいた。
鉄色は素晴らしいが、ゴツゴツとした肌、頭と縁の関係不明の図に悩んでいたのです。
ひらめいたのは左側下の松であった。
まるで林又七の遠見松のようなデホルメされた松、ここだけが具象と言える。
この松と右側上の∩な山とを結びつけると、美保の松原、右側の∩は富士山、中間の金と銀の線象嵌は駿河湾、富士山より右側、切金の蒔絵象嵌は遠景の駿河湾、その上の小さな凸凹は箱根の山々だ。
これで縁がひと回りする。
留飲が下った。
さすが一琴、狭い画面に最高の技術を使い、具象、抽象を折り混ぜて、美保の松原と富士山を描いている。
唯一具象なのは、松原のみ、一琴の視点はここに有り、富士の描写は狭い画面と松原よりの距離を考えると抽象にならざるを得ない。
風呂屋のペンキ画のような富士はとうてい入り込めない。
加納夏雄が一乗門中第一は一琴と評したとのことだが、夏雄は一琴のスケールの大きさと自由奔放な表現力を見ていたのだろう。
(この辺はなんだか評論家のようですが、若山泡沫先生のまねです。)
一件落着、楽しかった、これから先永い間付き合えそうだ。晩酌の友にはとうぶん、困らない。
「え、頭の鉄拐仙人との関係はどうかですって」
よくごらん下さい。
鉄拐仙人は分身を吹きだしています。
分身は縁の方を向いているのです。
世にも美しいとの不二の山を仙人は眺めてみようと思われたのです。
「鉄拐仙人図」縁頭を変更します。(所有者の特権を使って)
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「富士見鉄拐」図縁頭
お笑い下さい。