日本刀は古くからわが国が誇る鉄の文化財です。
四方山話11 かわいそうな加倉井隼人
浅田次郎さんの黒書院の六兵衛に翻弄されている。
面白くて朝刊が来ると最初に目を通す。
登場人物が豪華そのもの、勝海舟、西郷隆盛、大村益次郎、
慶応四年の江戸城引渡しの場面、映画にするとどんなキャストになるか、
つい考え込んでしまう。
ところがこの小説の主人公は尾張藩江戸屋敷の長屋住まい組頭にすぎない
加倉井隼人である。
六兵衛は、15代将軍慶喜公であると目を付けた隼人であるが、徳川家御三家筆頭、
つまり尾張の殿様に江戸城内で対面することになる。
世が世ならお目見得さえもかなわぬ身でありながら、官軍の先遣隊として
城内にいる以上、付き従わなければならない。
尾張は江戸幕府を捨てている。
六兵衛は詰問をされるが、名前さえなのらず、だんまりをきめこんで対座し続ける。
その姿勢は尾張の殿様と拮抗して譲らず、とうとう殿様に先に名乗らせる。
「前の大納言」である。これは重い、誰しも、ヘヘェーと平伏せざる得ない状況なのに
六兵衛臆さず、同等目線で対座する。
ここで「前の大納言」が激昂する。
江戸城内とはいえ、大納言は太刀持ちの小姓を従えている。
小姓より、刀を引き抜き、六兵衛に斬りかからんとするが、江戸城引渡し前に
流血は避けなければならない、加倉井隼人が間に入ってとりなす。
さて六兵衛の大小とも肥前国忠吉初代であると、浅田さんがほのめかしていた。
前の大納言が引き抜いた刀はこの小説では2本目になる。「丹波守吉道」
京か大阪かは記されていないが尾張の殿様と丹波守吉道、15代将軍慶喜と
肥前国忠吉、どうもしっくりこない。浅田さんに魂胆があってのことか。
なんとかこの場が収まって、前大納言様より、六兵衛が徳川慶喜には似ても似つかぬと
加倉井隼人はつげられる。
かわいそうな加倉井隼人。まだまだ苦労は続きそうである。
二本の刀と持主、
何かしっくりこないと書いて、浅田さんに何か魂胆あってのことかと書いた。
尾張の殿様なら現代でも名古屋の徳川美術館に行けば、位の高い古銘刀がふんだんに拝観できる。
徳川本家なら、なおさらのことである。慶長新刀の雄とはいえ、
九州物と関西物新刀には違いない。
小説とはいえ、鎌倉時代より続く武家社会の掉尾を飾る刀が、丹波守吉道、肥前国忠吉とは浅田さんの魂胆をうたがうところなのです。
かわいそうな加倉井隼人には、この小説、早く終わらせてやりたい気持ちでいっぱいであるが今日現在で292回目(3/11)まだ終わりそうにない。
しかし、後、もう一本、刀がでてくる頃、この小説は終わるのではないかと思う。
言葉無き六兵衛が何事か話、その場面でもう一本が出て来て「黒書院の六兵衛」は大団円を迎えると私は勝手に思い、加倉井隼人もう少しがんばれと声援を送りなぐさめてやりたいのです。その時浅田さんの魂胆も見えるはずです。
次の刀が早く知りたいものです。