日本刀は古くからわが国が誇る鉄の文化財です。
四方山話36 「刀剣押形展について」
①静嘉堂文庫美術館にて「超・日本刀入門」(29年3月)が開催された際の新聞記事に国宝手掻包永太刀と太刀拵に並列して額装された全身押形が展示されている写真があった。
「<どの刀を観ても同じ>との声が気になっていたが、今回の展示で少しでも分かった気になってもらえれば」との山田正樹学芸員の声をのせていた。
結果はこれまでの静嘉堂刀剣展とくらべ客足は大幅に伸びたとのこと。
このことより、全身押形による刀文理解が刀剣観賞において重要であることがよく解る。
②岐阜県博物館<日本刀剣押形展 29年4月~6月>
全国初の試みとして全身押形(額装 軸装されたもの)展が、岐阜県支部 創立六十周年記念事業として足掛け二年の準備にて開催された。( (公)日刀保共催 )
三十八点中、約半数は本身とともに並列展示されていた。
押形の採拓は全て近藤邦治岐阜県支部長によるものであった。
額装・軸装された全身押形だけでも充分に観賞の対称になっていることに驚いたが、博物館に於ての開催でもあり、今後、刀剣界に大きな影響を与える予感がした。
刀剣ブームの再来とかで、全国中で日本刀展が開かれている。
③30年9月、長崎県支部が協会共催事業として、<日本美術刀剣と押形展>を長崎歴史文化博物館にて開催した。
短い期間に二千数百人の入場者が有ったとのこと。
全ての刀に全身押形が並列されていて、入場者の皆様は幸運であった。
長崎の刀剣文化は一段の進歩をとげたと思われる。日本刀の魅力は刀文にも有り、刀文理解は入場者に大きな影響を及ぼし、質の高い刀剣観賞力を根付かせたと思う。
今後催される刀剣展では、全身押形を並列(たとえ一部の刀でも)展示しようとの考えが起ってくると思う。
④岐阜県支部が岐阜県博物館にて、(三十年 四月~六月)<兼定 刀都・関の名工>展を開催した。
=兼㝎=(之定)が中心の企画展であり<美濃刀の雄兼㝎>、岐阜県支部の意気込みが強く感じられた。
又 岐阜県博物館より、図録が発行、販売されていた。
<之定>単独の図録の感の強いせいか、岐阜博物館の都合もあったのか、発行部数が少ないとのことで、
入手されにくいと思うが、この図録には写真とともに縮小版とはいえ多く、全身押形が掲載されている。
今後の日本刀展図録発行にとって貴重な前例となると思う。
全国初の全身押形展が増々発展していくことを祈っている。
日本刀の理解を深め日本刀愛好者を増していくと思うから。
⑤刀剣美術(743号)P2~P16
(日本刀の記録の歴史と今後の展望)― 押形の再評価について ―
協会学芸員 井本悠紀調査課主任の論文中
<押形は、地鉄を除いた多くの情報を記録できる資料性が高い記録法>であるが、
①採拓者の巧拙が影響し易い。
②刃文の模写に関して主観が入り易い。
等の記録の正確性に批判対象となり得る要素を有している。
との記述があります。
私は押形彩拓に関しては、門外漢です。
押形に関しての研究や実践に取り組まれているとの記事も読んだような憶えがあります。
井本調査課主任をはじめ協会学芸員の皆様が御多忙のこと承知しておりますが、刀剣押形は、刀剣に興味を持たれる今後の人々にとりまして、重要かつ、力強い資料となると確心しております。
押形がいつも身近で、親しみやすく、勉強の糧となる環境になるよう御研究して下さい。
お願いいたします。
(公)日刀保会員 米田一雄